risou's Lithograph

ブラウザを Arc に切り替えて何が変わったか

2023-09-12

Arc とはなにか

Arc from The Browser Company

Arc は2023年9月現在、 Mac OS や iOS に対応しているブラウザです。
Chromium エンジンを採用しているものの、見た目や使い方は大幅にカスタマイズされているため、ファーストインプレッションでは Chrome とは結構違うように思う方も多いのではないでしょうか。

Arc は2022年にベータ版としてリリースされ、 wait list に入っている人に順番に配布されてきました。
今年の7月25日にバージョン 1.0 として正式リリースされ、そのタイミングから誰でもダウンロードして使えるようになっています。

Arc の特徴

Arc はエンジンこそ Chromium を採用していますが、 Google Chrome などの同エンジンを採用しているブラウザとの違いもかなりあります。

縦型タブを採用

古来(?)、一部の Firefox や Chrome ユーザが拡張機能で実現してきた縦型タブが標準で採用されています。
現在のモニタは以前よりアスペクト比が高く横に長いものが多いため、縦型タブの方がスペースを有効活用できるケースが多そうです。

ブックマークがない

これは正確な表現ではなく、ブックマークに相当するものとして、 “Favorites” と “Pinned” があります。
“Favorites” はサイドバー上部にアイコンで表示され、同じプロファイルの全てのスペースに表示されるため、頻繁にアクセスするサイトを登録しておくと便利です。
対する “Pinned” は “Favorites” の下に表示され、タブ自体を閉じてもタブのリストに残り続けます。そして再びタブを選択するとそのサイトをロードしてくれます。
従来のブックマークに近いのは “Pinned” でしょうか。 “Pinned” にはフォルダも追加することができ、タブを分類して整理することも可能です。

タブが自動的にアーカイブされる

そして “Pinned” の下に通常のタブが表示されるのですが、これらは放っておくと勝手にアーカイブされます。
デフォルトでは12時間でアーカイブされる設定になっており、タブを開きすぎることを抑止してくれます。
タブがアーカイブされるまでの時間は12時間、24時間、7日間、30日間から選ぶことができます。
僕は自分の仕事におけるタブのライフサイクルに合う7日間を設定しています。
つまり1週間放置しているタブは勝手にアーカイブされるようにしています。
この設定だと、複数の調べごとをしているときなどタブが一時的に膨大な数になることはありますが、無限に放置されることはないため、気がつけば開いているタブが3桁を超えていた、という惨状を避けることができます。

タブに自由に名前をつけられる

通常は開いているページのタイトルが表示されているタブのラベルですが、リネームできます。
短期的に閉じられるタブでは特に使いませんが、 “Pinned” のタブでは非常に便利です。
(下の方で実際の使用例も記載しています)

1ウィンドウで複数プロファイルを扱える

Google Chrome を使っていたときは、個人用プロファイルと仕事用プロファイルを別で開いて使っており、複数の会社の仕事などしているとプロファイルが3つ以上になることもありました。
Chrome では異なるプロファイルで開いたタブを1つのウィンドウにまとめることはできないため、最低でもプロファイルの数だけウィンドウを開く必要がありました。
僕はタイル型ウィンドウマネージャを使っており、ウィンドウの数が増えると1つあたりのウィンドウの領域が狭くなっていくため、ウィンドウの数が増えることは僕にとって好ましくありませんでした。
Arc はスペースという概念を持っており、これがいわば従来のブラウザにおけるウィンドウみたいなものになるのですが、アプリケーションとしてのウィンドウは1つのままでどのスペースをアクティブにするかを選択することができます。
また、スペースごとにプロファイルを選択できるため、1つのウィンドウの中に全てのプロファイルをまとめることができます。
僕の場合は、普段は個人用プロファイルと仕事用プロファイルで1つずつスペースを用意しており、1つの仕事をちょっとペンディングして別の大掛かりな仕事に手を付けるときなどは仕事用プロファイルのスペースを追加する、という運用をしています。

分割ビューに対応している

Arc はなるべく1つのウィンドウで完結するように工夫されているのか、1ウィンドウの中で2つのページを開くことができます。
左右あるいは上下に分割して、片方のページを参照しながらもう片方のページで何かしらの操作をする、といったことが1つのウィンドウの中でできます。

Chrome 拡張が利用できる

先に書いたように Chromium エンジンを採用しており、 Google Chrome の偉大な資産である Chrome 拡張を使うことができます。
Chrome 拡張は Google Chrome の価値を高める存在であり、これを利用できることは新興ブラウザにとっては大幅なアドバンテージでしょう。
僕はプロファイルごとに Google アカウントでログインしているので、それぞれのプロファイルで Chrome を使っていたときにインストールしていた Chrome 拡張を引き継げました。

個人的に便利に思っていること

一部のサイトはカーソルホバーで情報を閲覧、選択できる

これはあまり対応しているサイトが多くないのでそこまで便利かというと、という気持ちもありますが対応しているサイトに関しては非常に便利なので紹介します。

たとえば Google Calendar を “Favorites” か “Pinned” に入れておくと、対象のアイコンもしくはタブにカーソルを合わせるだけで現在時刻から直後5時間程度の予定がバルーンで表示されます。

他には GitHub のプルリクエストのページを “Favorites” か “Pinned” に入れておくと、カーソルを合わせるだけで unread PRs の一覧をバルーンに出してくれます。
これは数が少々多くてもスクロールでき、なおかつ選択することでそのプルリクエストのページを開くことができます。

“Pinned” のタブは閉じても残るため、何度もアクセスするページを登録しておくと便利

僕の場合は仕事で関わっているリポジトリの Issue/PR の一覧ページを3つに分けて登録しています。

これで自分が担当している Issue、自分の作った PR、自分のレビューを待っている PR を漏れなく確認することができます。
そしてこれらのタブにはそれぞれわかりやすいように my Issues, my PRs, review tasks というラベルをつけています。

“Favorites” や “Pinned” に分割ビューをそのまま保存できる

分割ビューは例えばマニュアルを見ながら操作をする、といったときなど使いどころの多い便利な機能ですが、 Arc はこの分割ビューをそのまま “Favorites” や “Pinned” に入れることができます。
つまり「マニュアルページ」「操作画面」を左右に並べた状態でブックマークができるようなものです。

Note/Easel という独自機能がちょっとしたメモ代わりに便利

いわばブラウザに備え付けられているテキストメモ機能とホワイトボード機能のようなものです。
Note は一時的なメモを残したり、文章を整えたりと非常に使い勝手が良いです。
Easel は Web ページを埋め込むことができます。複数の監視サービスのページを埋め込んでマイダッシュボードみたいなものを作ったりすることもできます。テキストや画像も入れることができるため、カスタマイズ性も十分です。

Little Arc がちょっとした用途に便利

Cmd+Option+N で開くことのできる Little Arc という一時的な別ウィンドウは、ここまで1つのウィンドウに全てを集約してきたが故の使い勝手の悪そうなイメージを払拭してくれると思います。
チャットツールに貼られたリンクをクリックする度に Arc に新しいタブが開かれることを望む人もいれば、そうでない人もいます。
Little Arc はちょっとページを開いて閲覧することはもちろん、そのまま Arc 本体にそのタブを開きたい場合にはボタン1つ(あるいはショートカット1つ)で Arc にマージすることができます。
また設定で Little Arc を経由せずに Arc で開くサイトを指定できたりする点も便利です。他のアプリケーションから開かれるページが全て Little Arc なのは逆に面倒だからです。

個人的にここは微妙と思っていること

Cmd+Shift+T で復元されるタブが直前に閉じたものではないときがある

閉じた直後にもう一度開きたい、となって Cmd+Shift+T を打つとしばらく前に閉じたタブが開かれたりする。
Archived Tabs を見に行けばあるのでそこから辿り着けるが、この挙動は復元されるタブが直感的にわからなくなってしまい不便。

Ctrl+N で新しい Note が開いてしまう(デフォルトのキーマップの場合)

キーマップを変更すれば良いだけではあるのですが、開いているページのテキストフォーム内でカーソルを下に移動するために Ctrl+N を押していると気づいたら New Note が “Pinned” に作られていたりします。
Mac OS の操作との重複なのでデフォルトで他のキーに割り当てられていてもいいのになあ、と思います。

Note でコードブロックが表現できない

Note は個人的には初期の Dropbox Paper のような使い勝手だと思っています。
見出しや太字・下線、リストなどに対応しているためちょっとしたドキュメントを作るのには便利です。
また、画像を差し込んだりリンクを設定することもできます。
一方で、テーブルやコードブロックを入れることはできません。
コードブロックとは言わないまでも、コードスニペットを貼り付けた際にその部分だけ等幅フォントに変えられると便利なのにな、と思っています。

“Pinned” が肥大化しがち

サイドバーには上から “Favorites” 、 “Pinned” 、そしてその他のタブという順に並んでいます。
タブが増えてくるとスクロールが発生しますが、 “Favorites” は常に最上部に残り続けます。
そのため “Favorites” は厳選しておくことが推奨されます。
“Favorites” が肥大化するとスクロールで表示される部分が狭くなってしまい、使いづらいためです。

そうするとブックマークしておきたいページのほとんどは “Pinned” に入ります。
“Pinned” はフォルダを置くこともできるのでうまく整理すればかなりの数を入れることはできます。
しかし Note や Easel は “Favorites” か “Pinned” にしか置けないため、ちょっとしたことで Note を作ったりしているとすぐに “Pinned” が肥大化します。
最終的にはその他のタブがスクロールしないと表示されない状態になり、これはあまり便利ではありません。
“Pinned” を整理しようにも、フォルダはフォルダで1つ分のスペースを使ってしまうので限界があります。 しかしまあ、これは使い方の問題もあるので Arc が良くない、という話ではないと思います。

Arc を使って何が変わったか

一番大きな変化としては、ブラウザウィンドウの乱立、タブの増殖が抑制されたことだと思います。

以前はブラウザが複数ウィンドウ、3桁以上のタブを開いている状態が常となっていました。
これが大幅に改善したことは非常に良い体験でした。
よくアクセスするページにはよりアクセスしやすくなりましたし、同じページを複数の異なるタブで開いてしまっているといったこともほぼなくなりました。

紹介しなかった機能たち

最後に、自分はあまり使っていない機能や使っているけど熱く語るほどではないものを箇条書きで列挙しておきます。
Arc は既に誰でもダウンロードできるようになっており、現在は Windows 版の開発が進んでいます( Windows 版は wait list に登録できる状態になっています)。

  • “Pinned” にあるフォルダにカーソルを合わせるとバルーンで中のリストを表示してくれる
    • さらにバルーン内で検索によって絞り込むことができる
  • ブラウザ標準でスクリーンショットの機能を持っている
  • Boost 機能という、ページのカラーやフォントをカスタマイズする機能を持っている
  • Picture in Picture に対応している
    • Google Meet が対応しているので非常に助かっている
2023-09-12T16:42:28.901488Z